脳卒中の治療(3)

くも膜下出血の治療

くも膜下出血は「脳に血液を送る太い動脈にできたこぶ(動脈瘤)が破れて、脳の表面に出血する」病気であることはすでにご説明しました。

そして、もしくも膜下出血になってしまうと、最悪の場合即死してしまいます。一般に、くも膜下出血の患者さんのうち約1/3の方は出血と同時に死亡してしまう、あるいは何とか病院には運ぶことができたものの重症過ぎて死亡してしまうか寝たきりの状態になってしまうといわれています。
逆に、約1/3の方が何らかの後遺症を残され、残りの1/3の方は順調に経過してご自宅に退院、社会復帰を果たされるといわれています。

このような、くも膜下出血の経過に大きく影響する要素として重要なものは:

  1. 初回出血自体による脳のダメージ
  2. 再出血の有無及びその回数(出血を繰り返せばダメージも大きくなる)
  3. 脳の表面に広がった血液が血管に作用して引き起こされる「脳血管攣縮(れんしゅく)
  4. くも膜下腔への出血によって脳脊髄液の循環が障害され、脳に水がたまる「水頭症

があります。これらの要素それぞれに対する治療があるわけです。
また実際には、これらに加え、皆さんが体の中に持っていたいろいろな病気(合併症、余病)が表に出てきて経過を難しくするわけです。

1. まず、「出血自体による脳のダメージ」に対する治療ですが、これに関しては有効な治療法が残念ながら無いのが実状です。そのため、「最初の出血によるダメージの程度でその方の運命が決まってしまう」といっても過言ではないのです。この最初のダメージがあまり重症な場合、残念ながらそれ以降の治療ができない(脳や体が治療に耐えられない)場合があります。

2. 当然再出血が起こりますと、この「出血自体による脳のダメージ」はより重くなります。ですから、「再出血を防ぐ」ことがとても大切であることはご理解いただけると思います。くも膜下出血の原因の殆どは脳動脈瘤の破裂ですから、この動脈瘤が破裂しないようにしてしまえばいいわけです。
脳の血管に弱い部分があってそれがはじけて出血しているわけですから、あまり強い刺激をしたり、興奮したりすると血圧が上がって再出血を起こしやすくなるわけです。昔から「脳いっ血の人は動かしてはいけない」といわれてきたのはこのことですが、今は時代が違いますので「脳卒中が疑われたら無用な刺激はせずに早く専門の医師の診察を受ける」事が大切なのです。
一般に「くも膜下出血の手術」と呼ばれるのは、こういった処置で、頭を切り開いて動脈瘤の根元をはさんで止めてしまうクリップ手術(下のアニメをご参考下さい)」と血管の中から細いカテーテルを動脈瘤の中まで入れて動脈瘤を金属製のコイルで埋めてしまう「血管内コイル塞栓術脳血管内手術のページをご参照下さい)」があります。

ここで大切なのは、これらの手術はあくまでも「再出血を防いで」これ以上「脳のダメージが重くなる事を防ぐ」事が目的なのです。ですから、けして「手術で脳のダメージが軽くなる」訳でも「手術でくも膜下出血自体が良くなる」訳でもありません。ですから、患者さんの状態があまり重症な場合、手術自体の危険が高い場合は手術を行えない場合があるわけです。

3. くも膜下出血から数日後より2週間目頃までの間に、くも膜下腔を走っている比較的太い脳の血管がけいれんを起こして細く縮んでしまう現象が起こります。この現象を「脳血管攣縮」と呼びます。
動脈瘤の破裂によって脳の周りに出た血液は、約2週間程度の間に次第に分解され吸収されていきます。しかし、血液が分解される過程で、様々な「活性物質」と呼ばれる物質がくも膜下腔内に出てきます。こういった「活性物質(まだ完全には解明されていません)」が脳の血管に作用して血管を収縮させると考えられています。

脳の血管が縮んで細くなってしまうわけですから脳に血液が不足してしまい、最悪の場合には脳梗塞となってしまいます。症状としては、まず頭痛(これはくも膜下出血後はずっと続いていることが多いのですが)がだんだんひどくなり食欲が低下してくることが多いようです。実際に脳の血液が足らなくなってくると、手足の麻痺症状混乱などの意識障害言語障害が出てきます。進行を止めることができなかった場合には麻痺や痴呆などの後遺症を残したり、死亡することもあります。

原因がまだ完全に解明されていませんから、特効薬といった治療法もありません。
治療としては、血管を拡張させる作用を持つ薬、血液が流れやすくなる様な薬などを注射したり、血圧を上げて血管が細くても血液が流れる様にしたりします。細くなった血管を広げる薬剤をカテーテルを使って直接脳の血管に注入したり、カテーテルで血管の中から広げる治療が行われる場合もあります。

4. くも膜下出血は本来「脳脊髄液」が流れている「くも膜下腔」に起こるわけですから、出血の影響で「脳脊髄液」の流れが障害されて、脳の中に水がたまる「水頭症」が起こります。「水頭症」は出血直後に起こる場合と、出血から1−2か月(長い場合は半年や1年以上経ってから)ゆっくりと水の流れが悪化して起こるものがあります。いづれの場合でも要は流れにくくて溜まってしまった「脳脊髄液」を脳の外に流してしまえば良いので、出血早期なら体の外に流し出す「ドレーン」という管を脳室に入れる手術、時間が経過している場合は「脳室腹腔短絡(シャント)術」という細い管を脳からお腹の中まで埋める手術をすれば治療できる事が多いのです。しかし、これらの手術は「異物」を体に入れるわけですから細菌(ばい菌)による「感染」といった問題もあります。