
(脳血管内治療ってなあに?)
脳血管内治療とは、開頭手術の難しい場所にある脳の動脈瘤や脳の血管の奇形を血管の中から埋めてしまったり、脳の血管が細くなって詰まっている部分を広げたりする治療です。「カテーテル治療」などと呼ばれることもあります。
脳の他に心臓や肝臓でも行われ、特に心筋こうそく(梗塞)や狭心症の方の細くなった心臓の血管を風船を使って広げる「経皮的心血管形成術」や、肝臓にできたポリープなどに行く動脈を塞いでしまって病気の細胞を兵糧責めにする「腫瘍動脈塞栓術」などは、我が国でも非常に多くの病院で行われている治療法です。
しかし、脳の血管はくも膜下出血の話の中でもご説明しましたが、心臓や肝臓と違い「くも膜下腔」という空洞の中を走っていますので、万が一血管が傷つくと「くも膜下出血」を起こしてしまいます。
また、脳はそれぞれの場所がそれぞれ別の働きを持っていますので、万が一脳の血管のうちの一本がつまってしまうと「脳こうそく(梗塞)」を起こしてしまい後遺症を残す危険性があります。
こういった理由で、脳のカテーテル治療は、他の内臓などと比べると「慎重に」「無理をしないように」「専用の器具を開発しつつ」発展してきたわけです。
脳血管内治療は開頭手術と比べ、「小さな傷(針を刺した孔のみ)で治療ができる」「脳自体を触らずに治療ができる」「多くの場合局所麻酔で治療ができる」「入院期間が短期間で済む」などといいことずくめの治療法のように聞こえるかもしれません。しかし、開頭手術と比べまだ実用化されて日が浅く(平成4年に健康保険が使えるようになりましたので、今年でちょうど9年経ちます)、また、確実性など問題を残している部分もあり、決して夢の治療でも万能の治療法でもありません。開頭手術は歴史も古く、その確実性や危険性もはっきりしていますから、現時点における脳の病気の治療はあくまでも開頭手術が第一で、脳血管内治療は主に開頭手術での治療が非常に困難な(あるいは危険性が高い)場合の治療法であるわけです。
脳血管内治療が可能な病気は次にあげるとおりです。
これらのうち、1から4は血管を中から塞ぐ「塞栓術」、5、6は狭い血管を広げたり詰まりをとる「血行再建術」という方法で治療を行います。(簡単に言うと、「詰める治療」と「開く治療」です)
病名をこう並べてしまうと殆ど全ての脳の病気が「脳血管内治療」で治療可能なように誤解を受けるかもしれません。
実際には、
があります。
それぞれの病気や患者様によって、治療の方法は千差万別で、決して「脳血管内治療」のみが優れた治療ではなく、同じ病気でも開頭手術の方が良いと判断される場合、逆に血管内治療の方が良いと判断される場合があります。我々医師は、多くの選択肢の中から、その方にとって最も「安全」で「確実」と考えられる治療法を選択するわけです。
また、血管内治療は「カテーテル検査室」で行われるので、検査と同じ様な危険性の治療とお考えになっている方を時折見かけますが、血管内治療はれっきとした治療(手術)行為ですので、頭を直接開ける手術と同様の危険性(場合によってはそれ以上)があることをご理解下さい。
脳血管内治療を大きく分けると、@血管を中から塞ぐ「塞栓術」と A狭い血管を広げたり詰まりをとる「血行再建術」に分かれます。
塞栓術とは、
楊枝(ようじ)と比べた「電気式離脱型コイル(GDC)」
治療用カテーテルの先端(赤矢印)から外に出ると丸まります。
ガラス管模型の中に実際にカテーテルを入れて、コイルを入れた状態。
このようにして動脈瘤を塞ぎます。
コイルを使った動脈瘤の塞栓術はこちら。
樹脂(接着剤)を使った脳動静脈奇形の塞栓術はこちら。
塞栓術の利点:血管の中から異常血管の流れを止めたりできるので、開頭して異常血管を止める手術と比べ患者様の体に対する負担が軽く、開頭手術の難しい場所にある脳動脈瘤、ご高齢、心臓、肝臓に病気を持つ方などでも治療が可能です。中でも、開頭手術が特に難しい「脳底動脈の動脈瘤」などに対して有用とされています。
塞栓術の欠点:現在治療に使用が認められている道具(閉塞に使う物=塞栓物質)はプラチナ製のコイルに限られています。動脈瘤が丸く入り口が狭い場合は問題ないのですが、動脈瘤が大きい場合、不規則な形をしている場合などには、この方法では治療が困難な場合も少なくありません。また、動脈瘤の入り口には金属が露出するため、治療後に脳こうそく(梗塞)を引き起こす危険性があり、治療後しばらくの間(1−3か月)は脳血栓の予防薬をのまなくてはいけません。また、新しい治療法ですから、治療後も定期的な検査が欠かせません。
血行再建術とは、
血管拡張用バルーン付きのカテーテル。この風船で、狭くなった血管を押し開きます。バルーンを使った動脈硬化の血管形成術はこちら。
血行再建術の利点:脳こうそく(梗塞)が落ち着いてから直接手術で狭窄を広げる「血栓内膜剥離術」や「バイパス手術」と異なり、脳こうそく(梗塞)が起こった直後(急性期)に行うことができ、血管の詰まり具合や狭窄の様子を確認する検査に引き続いて治療が可能であります。特に脳底動脈という生命中枢自体に直接血液を送る血管がつまった場合、バイパスなどの手術が困難で、点滴治療のみでは予後が悪い場合が多く、本治療法が威力を発揮する場面があります。
血行再建術の欠点:まだその効果(有効性)が確認された方法ではなく、その結果も非常に効果的な場合と、再開通ができず効果的でない場合があります。また、治療(血管の再開通)自体は成功しても、逆に脳の死んでしまっている部分から出血を起こす「出血性こうそく(梗塞)」という状態を引き起こす危険があり、必ずしも患者様が良くなるとは限らないというジレンマもあります。
脳塞栓症に対する「局所線維素溶解療法」や血管狭窄に対する「経皮的血管形成術」については、筆者の友人である「森貴久先生」のHP、「植田敏浩先生」のHPが詳しいので、こちらもご参考にしてください。
その他に、脳腫瘍(しゅよう)の栄養血管に直接抗癌剤を注射したり、脳血管攣縮で細くなった脳の血管の中に血管拡張剤を注射する「局所薬剤投与」や、脳の特殊な静脈の中の血液だけを採血して病気の診断の助けをする「選択的採血」などといった方法もあります。
脳血管内治療はまだまだ特殊な治療法で、残念ながら現段階では、日本中どの病院の脳神経外科の医師でも可能とは言えません。
「脳血管内治療のエキスパート」である脳血管内治療指導医・専門医の先生方についての情報は、日本脳神経血管内治療学会のHP(「専門医制度」にお進みください)をご参照ください。