Q&Aのコーナー

 

頭部外傷:頭をぶつけてしまった…あとから出るって言うけど大丈夫?


Q:1年前に頭を鴨居にぶつけました。最近頭痛がするのですが、大丈夫でしょうか?

A:頭も体の一部です。だから、打ってから1年も経ってから異常が出ることは非常にまれです。たしかに、ごくまれに、頭を打った時に脳の血管が傷ついて弱くなっていて、そこに動脈瘤ができて破裂する「外傷性動脈瘤(りゅう)」とか、首の部分の頚動脈が傷ついたままに周りの組織と癒着していて、何かの際にこの血管の傷が広がって出血をしたり逆に血管が詰まったりする「外傷性血管解離(かいり)」、頭を打った際に目の奥の動脈に傷が付いて、目の静脈に逆流して白目が充血したりする「内頚動脈海綿静脈洞瘻(ないけいどうみゃくかいめんじょうみゃくどうろう)」など特殊な例があるのは事実です。しかし、このような例は非常にまれで、通常は1年前の頭部外傷は関係ないことがほとんどです。また、脳に異常が起こるのは、かなり強い外傷の場合がほとんどだとお考え下さい。

 

Q:一般に、「頭を打つと後から出るから怖い」といわれます。どのくらいの間用心すればよいのでしょう。

A:昔は頭を打っていても本人が元気なら放っておかれることがきっと多かったんだと思います。だからこんな「言い伝え」ができたのでしょう。
「頭を打つとあとから出る」事があるのは事実ですが、その時期は限られています。「後から出る」一般的な病気は3種類あります。

  1. 頭を強く打つ(最近では交通事故やスノーボード外傷)と、頭蓋骨が折れたり、頭蓋骨の中で脳が大きくずれたりして脳の表面の血管が切れてしまうことがあります。そうすると、脳と頭蓋骨の間に数時間から数日間かけて出血が溜まってしまう急性硬膜外血腫(こうまくがいけっしゅ)・硬膜下血腫(こうまくかけっしゅ)」という出血が起きることがあります。「頭痛のQ&A」でもお話ししましたが、脳には感覚がないので、血管が切れて血が溜まっても最初はあまり自覚症状がありません。次第に出血が増えて、脳が強く圧迫されるようになって初めて、頭痛や意識障害が出ます。この状態は一刻を争い、緊急手術が必要なことが希ではありません。しかし、逆に言うと、「急性硬膜外・硬膜下血腫は症状が出る前から出血は貯まっているので、コンピューター断層写真(CT)などで、具合が悪くなる前に出血が発見できることも多い」わけです。
    コンピューター断層写真(CT)が発明され、我が国に普及したのは昭和53年頃です。それまでは、脳の異常を調べるのは脳波、脳の血管造影などしかありませんでした。当時は、「急性硬膜外血腫・硬膜下血腫」は我々脳神経外科医にとっても最も怖いけがのうちの一つでありました。しかし、CTの普及とともに比較的早期に対応できるようになってきています。
    ただ、いまでも「(頭を強く打ったのに)忙しくて頭痛を我慢していたら手遅れになってしまった」とか、「(酔っぱらって階段から転落して頭を打ったが)酔っぱらっているせいだと思って放置しておいたら死んでしまった」などという事例もあります。もし、楽しい遊びの途中でも、万が一強く頭を打った場合(特に打った直後に意識を失った、打った前後を覚えていない場合)には、速やかに専門医の診察を受けて下さい
  2. 「急性硬膜外・硬膜下血腫」は脳と頭蓋骨の間への出血でした。それに対して、脳自体に直接の衝撃が加わると脳が壊れ、出血したり、腫れたりします。これを「脳挫傷(のうざしょう)」といいます。脳挫傷(のうざしょう)が起こるほどのけがの場合、やはり直後から意識が悪い(ボーとしている、呼びかけに応じない)とか、壊れた部分の症状(麻痺や言語障害など)が起こる事が多いのですが、ごく狭い範囲の脳挫傷では症状にも現れず、CT上もはっきりとした所見として現れない場合があります。こんな時は、頭を打って数時間から数日後に出血が増えて異常症状が出てくる場合があります。こういった場合「遅発性脳内血腫」と呼びます。
  3. 2歳以下の子供さん、あるいは中年以上の方(特にお酒を多く召し上がる方)が頭を打った場合、直後に検査しても何も異常を認めないのに、頭を打ってから1か月から2か月後(子供さんはもう少し早めから数ヶ月後まで)に脳と頭蓋骨の間に古い血液(または血液混じりの水)が溜まる慢性硬膜下血腫」という状態が起こることがあります。成人の方の場合、「雪道で滑って転んで頭を打った」などといった場合に、このタイプの血腫ができ易いようです。「慢性硬膜下血腫」が溜まると、次第に頭痛が出てきて、日毎に強くなり、放っておくと半身不随(半身麻痺)の症状が出てきます。
    診断は、CTをとればすぐに確認でき、比較的短時間の手術で溜まった血液を抜き取れば頭痛や麻痺もほとんどの場合消えます。ただし、時に頭を打ったことをご本人が忘れていて(強く打った場合忘れてしまうので)、知らぬ間にこの血腫が溜まっていて、麻痺症状が出たために「脳こうそく」や「痴呆」などと誤解されてしまう場合があります。

いづれにしても、頭を打ったら2か月くらいは「あとから出る」事があるのは事実ですが、その時期を越えると、あとはごくまれな出来事となるわけです。
頭を強く打った(特に意識を打った、打った前後を覚えていない)場合には、一度は脳の検査をお受けいただくことをおすすめします